合意形成で地域づくりを「みんなの事業」にする——八ヶ岳ツーリズムマネジメント代表理事・小林昭治インタビュー

地域を守ることが自分の会社の利益になる

八ヶ岳観光圏プラットフォームである八ヶ岳ツーリズムマネジメントは、八ヶ岳南麓の観光・宿泊施設の支配人がたちあげた「八ヶ岳南麓やとわれ支配人会」が母体となって生まれた一般社団法人です。この「八ヶ岳南麓やとわれ支配人会」は2006年に生まれたものですが、立ち上げ当初はまだ仲間内で飲み会をするだけのような団体だったんです(笑)。ただ、そもそもの目的は八ヶ岳の活性化でしたから、徐々にきちんとそういう活動や事業をしていくようになっていきました。

当時私は指定管理施設になった清里丘の公園の統括営業本部長兼支配人をやっていたのですが、旅行会社からはその頃から「旅行は点では売れない」と言われていました。つまり、旅行に行く人は特定の施設だけを目的にはしないということです。たとえば清里の丘公園だけに来るとか、ピンポイントでどこかの温泉だけが目的で旅行に行く人はあまりいないでしょう? 旅行に来る人はたとえば沖縄に行くとか、北海道に行くとか、地域という「面」で選んで、それからそこにあるいろんな施設やお店に行こうと考えるわけです。だから、自分のところだけアピールしてもダメで、周辺のいろんな施設やお店がスクラムを組んで地域全体をアピールしていくことの必要性を強く感じました。そのことから地域(施設)を守るには地域全体が連携し、地域全体でプロモーションを行うことが自分の会社の利益にも繋がるというスキームを根ざしました。

そのようなことから、八ヶ岳南麓やとわれ支配人会でも複数の施設で共通で使えるアミューズメントチケットをつくったり、リゾートバスを走らせたり、プールやマクロビを組み合わせた「私再生の旅」なんてプランをつくったりと、施設の垣根を越えた事業をやり始めました。

今ある「八ヶ岳観光圏」事業はその延長であり、ずっと関わってきた地域活性化のノウハウの集大成です。

地域づくりという「ビジネスモデル」

私は民間から財団法人、財団法人から県に出向、そこから指定管理会社へと運営会社を転籍しながら、丘の公園という県の施設に長年にわたり関わり、さらには、指定管理者受託企業として運営することとなりました。昔「県の施設、公共の施設を使うということは、その施設を使って地域を活性化させないといけない」と言われたことがありますが、それは今でも心に残っています。

ただ、それはボランティア、慈善事業ということではありません。実際、八ヶ岳観光圏でやっている事業もボランティアはひとつもない。冬の恒例となっている「寒いほどお得フェア」も、参加店舗からは参加費を預かって運営しています。

行政が行う事業は良くも悪くも誰でも参加できてしまうし、何でも取捨選択せずに参加をしていただきますよね。たとえば地域のお店を紹介するパンフレットみたいなものをつくるときに、いいお店だけでなくモチベーションの低いお店もまんべんなく載せなければならない。それゆえ、結果的にそのお店に来店されたお客様が失望して帰ることもある。

ですが、事業としてお金を出してもらって参加してもらうと、やっぱりある程度モチベーションの高いお店が集まるんです。そして、お金を払っているから効果もきちんと見るし、その事業がダメなら怒る。自分のこととして事業をチェックしてくれる。

お金をもらうから、他人事でない「みんなの事業」になるんです。事業を通じてステークスホルダーをつくりつつ、地域の合意形成を行なっていき、事業を通じて地域全体が潤う仕組みを目指しています。それが八ヶ岳ツーリズムマネジメントと八ヶ岳観光圏でやっていることです。地域づくりというのは実はビジネスモデルなんです。

合意形成は”地域という畑”を耕すこと

そして、「みんなの事業」をつくっていく、もっとも重要な土台となるのが合意形成です。つまり、自分たちの地域でどんなことをしたいか、どんな課題があるかというのをある程度共有して示していかないといけない。

これがないと、たとえば行政による補助金があっても無駄になってしまう。補助金だけ出されても、じゃあそれを使って何をするか、何をすべきか、誰がどう使っていくかというビジョンがなければ宙に浮いてしまうわけです。補助金は誰かが勝手に使うわけにはいかないけれど、かといって自分の自由にできるわけではない。結果的に、誰も「自分の事業」と思わないまま、補助金があるから何となく事業をやることになる。そういうお金は結局無駄になってしまいます。

合意形成とはいわば畑を耕すことなんです。耕していない畑に水をまいても一瞬表面が湿るだけで土地を豊かにしないでしょう? でも、合意形成をして受け皿をつくってあれば、補助金という水に意味が生まれる。地域のためにどんなことをすべきかという方向性が固まっていればこそ、補助金にも意味が生まれ、きちんとした事業になると考えています。

八ヶ岳エリアでは市町村の垣根を越えて合意形成する受け皿が、国内の他の地域に比べてできあがってきています。だから「八ヶ岳」という地域にやってくる人もいるし、地域の価値観が合えばリピーターになってまたやってきてくれて、交流人口が増加する。それが地域の独自の価値であるブランドづくり根源であり、地域づくりに繋がります。

八ヶ岳観光圏で行っていることはそのひとつのモデルケース。もちろん地域が100あれば、100の方法があるので、そのまま同じことをやればいいというわけではありません。だからこそ、地域に必要なこと、やるべきことを知るための情報共有と合意形成が重要になるわけです。
八ヶ岳エリアを活性化させていくと同時に、こういうビジネスモデルとしての地域づくりを全国に普及させたい。そうしていくなかで、「地域づくり」というものに市民権が得られるようにもできたら嬉しいですね。そんなことを今考えています。

八ヶ岳ツーリズムマネジメント代表理事 小林昭治

全国観光圏推進協議会 会長
日本版DMO推進研究会 会長
八ヶ岳観光圏整備推進協議会 代表
八ヶ岳観光圏 観光地域づくりマネージャー

【経歴】

昭和33年6月30日生まれ
株式会社清里丘の公園代表取締役社長
北杜市行政改革推進委員会委員/北杜市ふるさと創生会議副会長/八ヶ岳定住自立圏共生ビジョン懇話会委員/北杜市ケーブルテレビ情報連絡施設放送番組審議会委員長/北杜市雇用創造協議会委員/山梨県ジビエ認証協議会委員
一般社団法人北杜市観光協会 理事
NPOポール・ラッシュの会 設立理事/副会長
公益社団法人日本観光振興協会 観光地域づくり研修ナビサイト登録講師
全国町村職員中央研究所 観光地域づくり講師
社会福祉法人 心和会 理事

①平成22年4月に国土交通省から認定された八ヶ岳観光圏の法定協議会である八ヶ岳観光圏整備推進協議会代表者に任命され、観光圏が行なう事業の創出並びに運営を行うと共に、官民、地域、既存団体との壁がもたらす観光圏事業を進める上での隘路を取り除く調整に取り組んでいる。

②平成24年度からはさらなる地域連携並びに地域資源の再認識と再発掘をもにらんだ住民意識啓発事業の一環として、地域が一体となっての地域を代表するイベント「八ヶ岳天空博覧会in Winter」を創出した。

③平成25年度からは、一般社団法人八ヶ岳ツーリズムマネジメントが観光圏のプラットフォームとして新たなる観光圏とブランド確立支援地域の採択を受け、観光庁が認定する地域づくりマネージャーの中心として「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくりに(各関係諸団体と一緒になって)取り組んでいる。

④平成26年6月、全国の観光圏で連携を密にするために立ち上げた全国観光圏推進協議会の初代会長に就任し、10月30日には、『全国観光圏シンポジウム』~地方創生のカギは「住んでよし、訪れてよし」~の開催に尽力した。

⑤平成27年12月2日、地域においても「第1回八ヶ岳観光圏シンポジウム」を開催。観光地域づくり事業を地域の方々に啓蒙すべく団体・個人等、350名を超える方々が参加し成功に導いた。

⑥平成29年3月17日、現に「日本版DMO(観光地域づくりプラットフォーム)」構築に取り組んでいる自治体や関係団体が集まり、その理念や目的、観光地域づくりにおけるかじ取り役としての重要性、合意形成のありかた、活動内容などに関して自地域などの取り組みや課題を出し合い、お互いに論議する場として設立された「日本版(観光地域づくりプラットフォーム)推進研究会」の初代会長に就任。 現在は、地方創生加速化交付金事業でICTを活用し、ホームページ機能とマーケティング、マネジメント機能等を併せ持つシステム、「DMS(デスティネーション・マネジメント・システム)」の構築に着手し、効果的な情報発信、各種データの収集・分析、明確なコンセプトによる観光地域づくりを推進している。また、政府が推進する観光地域づくりの核となる「日本版DMO」の本登録を目指すとともに、観光により交流人口を拡大させ、地域を活性化させる観光地域づくりを基軸とした地方創生に取り組んでいる。(平成28年5月31日本版DMO候補法人として登録)